2020年3月2日(木)
海水浴の時代
日豪プレス2020年2月号 No43
メルボルン Melbourne
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1850年代、日本では江戸末期にメルボルンでは海水浴の普及が始まった。
セントキルダシーバスは、1858年にセントキルダの海岸に建設された海の中のスイミングプールである。
撮影データ Canon EOS 5D MarkU 絞り優先AE 評価測光 1/320 F9.0 ISO感度 100 太陽光 露出補正 JPG
レンズ EF 24-70mm f/2.8L USM 2016年1月16日15:47 板屋雅博撮影
1851年にビクトリアでゴールドラッシュが始まり、たくさんの富裕層、中産階級が生まれ、メルボルンの都市化は急速に進んだ。メルボルン市内のレストランでは冷えたビールが普及し、各家庭に都市ガスが普及するなど、近代的な生活が始まっていた。
メルボルンから一番近い行楽地としてセントキルダの海岸に多くの人が週末などに訪れた。
セントキルダの海水浴ブームが始まる以前の1854年に地元のケニー船長が、セントキルダ海岸に座礁していたナンシーという移民船を購入して、海水浴船として利用を始めた。同時に女性用の海水浴場所を提供しています。ケニー船長は積極的な広告を展開して多くの客を集め、セントキルダに多くの観光客が集まった。当時は、電気も自動車も列車もない時代であり、富裕層は、自家用の馬車で海岸に通った。現在、メルボルンの主要道路であるセントキルダ通りは、海岸へ向かう馬車用の道路として始まっている。
欧米の海水浴の風習は、英国に始まる。1700年代の中頃、海水浴が健康に良いとロンドンの医者が発表し、都市部の市民に評判になった。ロンドンから100kmほどと当時の人の場合、徒歩でも1日又は2日で行ける距離にある英国イングランドの南の海岸地帯にあるブライトンがビーチリゾートとして知られ始め、観光ブームが起こった。現在でも英国では最大のビーチリゾートとして有名な観光地で、ヨーロッパ大陸などからの観光客も多く訪れる国際観光都市である。
江戸から熱海が同じほどの距離にあり、時期的にも温泉ブームであったことと一致する。豪州への移民が始まる1780年代には英国王ジョージ4世が、中近東、インド風の夏季別荘ロイヤルパビリオンをブライトンに建設した。
メルボルンでも直ぐに流行して、手軽な海水浴場としてセントキルダ海岸、ブライトン海岸が人気の場所になった。当時は、電気も自動車も列車もない時代であり、富裕層は、自家用の馬車で海岸に通った。現在、メルボルンの主要道路であるセントキルダ通りは、海岸へ向かう馬車用の道路として始まっている。
家族連れを中心として多くの観光客が訪れたが、大きな問題があった。当時は、男女が一緒に海水浴を楽しむ風習は、英国や豪州でもなかった。
鉄道の開設と共に多くの労働者階級もまたブライトンに海水浴にやってきた。労働者階級の男性は、水着を付けずに泳ぐものもいた。中産階級以上の家族が泳ぐためには、労働者階級とは違う施設が必要とされた。それがシーバス(Sea Baths)であった。
セントキルダ・シーバスは、1858年にセントキルダ海岸に建築された。海岸の海水中に100m四方のプールを作ったものである。セントキルダ・シーバスは、男性と女性の使用時間帯を分けることにより、公衆の視線を避けて専用プールとして女性も海水浴を楽しめた。
1857 年にメルボルン中央駅フリンダース駅〜セントキルダ鉄道線が開通し、1861年にセントキルダとブライトンを結ぶ鉄道が敷設された。
1880年代からセントキルダからブライトンにかけては多くのシーバスが建設された。ミドル・ブライトン・バスは、1881年に建設された。
シーバスには、入場料が必要なため、労働者階級は必然的に分離された。しかしシーバスの内部でも、やはり男女は別の時間帯にのみ水泳を許された。1900年代に入っても男女別に泳ぐ時間帯が定められていた。
現在、シーバスが昔のままの姿で残っているのは、ミドル・ブライトンシーバスただひとつのみである。海を囲った本来のシーバスとしての機能は失ったが、まだ昔の施設を保持してスポーツ施設として残っているのは、セントキルダ・シーバスがある。ジローンビーチにもシーバスが残っている。世界でもほとんど残っていないと思われる。セントキルダ・シーバスは、陸上に建て直され、海水を引きこんで海水プールとして使用されている。1970年代には、オーストラリアも近代化され海水浴も男女とも一緒に泳ぐようになり、シーバスの本来の意味がまったく無くなってしまった。従いメンバー数も激減し、ブライトン市も他の多くのシーバスと同様にミドル・ブライトン・シーバスを廃止することで決議された。しかし多くの水泳愛好家や、市民の反対運動により決議は覆され、存続が決まった。
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